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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)4743号 判決

原告 高橋房子

右訴訟代理人弁護士 板垣只二

被告 飯田政栄

〈ほか一名〉

右被告両名訴訟代理人弁護士 猪俣浩三

同 高橋利明

同 加藤隆三

主文

原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

「(一)、被告飯田政栄は原告に対して、別紙物件目録記載(二)の建物を収去して、同目録記載(一)の土地の明渡しをせよ。

(二)、被告秋山節男は、原告に対して、別紙物件目録記載(四)の建物を収去して、同目録記載(三)の土地の明渡しをせよ。

(三)、訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決。

二、被告ら

主文同旨の判決。

第二、原告の請求の原因

一、昭和二二年六月一日、原告は被告飯田に対し、別紙物件目録記載(一)の土地を、被告秋山に対し同目録記載(三)の土地(以下右両土地を一括して「本件各土地」という)を、いずれも堅固でない建物を所有し、一時使用するため、期間を三年、賃料は一箇月につき四五〇円と定めて、賃貸し、被告飯田は同目録記載(二)の建物を、被告秋山は同目録記載(四)の建物(以下右両建物を一括して「本件各建物」という)を、それぞれ右賃貸土地上に所有している。

二、右各賃貸借契約は、約定期間満了の都度、更新されてきたが、原告は本件各土地をみずから使用する必要があるので、昭和四〇年五月三一日の約定期間満了の際、被告らに対し、以後の本件各土地の使用に対する異議を述べたので、本件各土地の賃貸借契約は同日をもって終了した。

三、仮に、右の約定期間の満了による賃貸借契約の終了が認められないとしても、本件各建物はいずれも簡易な建物であり、建築後すでに十九年余を経過したため朽廃したので、これにより被告らの本件各土地に対する借地権は消滅した。

四、よって、原告は被告らに対し、それぞれ本件各建物を収去して本件各土地を明渡すことを求める。

第三、被告らの答弁

一、請求原因第一項の事実中、別紙物件目録記載(三)の土地の当初の借主が被告秋山であったこと、本件各土地の賃借が一時使用のためであったことは否認するが、その余の事実はすべて認める。別紙物件目録記載(三)の土地の当初の借主は被告秋山の父であり、その死亡により、同被告が賃借人たる地位を承継したものである。

二、請求原因第二項の事実は否認する。本件各土地の賃貸借は一時使用のためではないから、その期間を三年とした約定は借地法により定めなかったこととなり、その期間は三〇年とされるから、期間満了時期は、昭和五二年五月三一日である。

三、請求原因第三項の事実は否認する。

第四証拠≪省略≫

理由

(一)、昭和二二年六月一日、原告が被告飯田に対して、別紙物件目録記載(一)の土地を、堅固でない建物の所有を目的とし、期間を三年、賃料を月額四五〇円と定めて賃貸したこと、被告飯田が右土地上に同目録記載(二)の建物を所有していることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると、右と同日、原告が別紙物件目録記載(三)の土地を賃貸した相手が、被告秋山の父であり、同人の死亡により、被告秋山がその賃借人たる地位を承継したことが認められ、右賃貸借の目的、期間、賃料の定めが、右の被告飯田との賃貸借と同一であったこと、右土地上に被告秋山が同目録記載(四)の建物を所有していることは、当事者間に争いがない。

(二)、原告は被告飯田、および被告秋山の父に対する本件各土地の賃貸借が、一時使用のためのものであったと主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はなく、かえって、原告が、本件各土地の賃貸借契約が少くとも昭和四〇年五月三一日まで存続してきたことを自認していることからすれば、本件各土地の賃貸借契約は一時使用のためのものでなかったことを認めることができる。してみると、本件各土地の賃貸借契約には借地法が適用され、同法第一一条、第二条第一項によりその期間は三〇年であるから、期間満了時期は昭和五二年五月三一日となる。したがって、昭和四〇年五月三一日、本件各土地の賃貸借契約が期間の満了によって終了したという原告の主張は、他の点について判断するまでもなく採用できない。

(三)、原告は、本件各建物はすでに朽廃したと主張するが、鑑定人角崎正一の鑑定の結果(本件記録によると、右鑑定は原告の申出によって行われたものであるが、第八回口頭弁論期日においてその結果が法廷に顕出された際、原告訴訟代理人が、これを援用しない旨述べたことが認められるが、右の援用しない旨の陳述は、右鑑定の結果を原告主張事実の存否の判断の証拠資料とすることを望まないという意見の陳述にすぎないものであり、右鑑定の結果を、証拠資料とすることを排除する効果を有し得ないものと解する。)によると、本件各建物はいずれもいわゆるバラック建であり、かつ建築後二十年近く経過しているため、土台、柱、根太等の構造上の主要部分の腐朽等が著しく、建物としての経済的、機能的効用が著しく低下していることは認められるけれども、その建物としての効用を失って、借地法にいう朽廃に至っていると認めることはできず、他に本件各建物がすでに朽廃したということを認めるに足りる証拠はない。してみると、本件各土地の賃貸借契約が本件各建物の朽廃によって終了したという原告の主張も、採用できない。

結論

してみると、他に本件各土地の賃貸借契約が終了すべき原因があることについて主張がない以上、原告と被告らとの本件各土地の賃貸借契約は、存続しているといわなければならない。

よって、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺井忠)

〈以下省略〉

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